第3章 2 暖かな黒の中で
「…、あの時、ルシスさんも、ハイデスさんも、何だか世界が違うんだなって言うか……どこか、遠い人みたいに感じてしまって…。」
「…うん。」
「少しだけ、本当に少しだけ、寂しいなって言うか…私はここに来て良かったのかな、みたいな思いが、あって…。」
抱き締められる力が、少しだけ強くなる。目元から、耳元へ優しく口付けられた。
何だか無性にドキドキして、いつものスキンシップみたいなものの筈なのに、くすぐったくて震えてしまう。
カップを置いて、何だか酷くドキドキして話せなくなってしまいそうなのをハイデスさんの手を掴んで訴えた。
「大丈夫、ちゃんと聞いているよ…続けて。それを、ルシスに伝えたのかい?」
「あ、はい……、そしたら、そんなことないって、言ってくれて…。でも、その後…」
「…その後?」
耳朶を唇で小さく食むように、優しく刺激されて、それだけでゾクゾクしてしまって身体の奥が切なくなってしまう。顔を反らそうにも、片手で逆の頬を抑えられてしまっている。
怒ってる、訳ではないのだろうけれど、こんな状態でルシスさんとのキスを伝えさせるハイデスさんに、どうしたら良いのか分からなくなってしまう。
「ぁ、っ…あ、の…、また、発作みたいに…なっちゃって…ルシスさん、が…治して、くれ、て…。」
「…そう、か。ルシスは、どうやって?…君のここに、また口付けを?」
耳元で響くテノールにどうしようもなく身体が熱くなってくるのを感じながら、指先でなぞるように唇に触れられた。
「ご、ごめん、なさい…私、っ…。」
「あぁ、アンリ…君が悪い訳ではないんだ。でも、どうやってルシスが君を宥めたのか、知っておかないと。」
あぁ、やっぱり怒ってるのかもしれない。もっと早くに伝えるべきだったのだ。
「ほら、ルシスは君にどう触れた?こう、優しく口付けたのか?」
チュ、と小さく触れるだけの口付けをされる。
この前の発作はこれで治ったが、夜会の時にされたのはもっと深く溺れるようなキスだった。
うつ向いて首をふる私に、困ったな、と言ったハイデスさんは不意に私の顎を掴むとその整った唇を重ねた。
「、ん…っ、ふ…!」
突然のことに驚くが、その大きな手でしっかりと顔を固定させられてしまっているので逃げられない。
滑った舌が擦れて、その度に嘘みたいに気持ち良くて、身体の芯が疼いた。