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私を愛したモノなど

第3章 2 暖かな黒の中で


「ほら、いつまでも夜風に当たるのは良くない。それに、今の季節こんな時間に長く一人で外にいてはいけないよ。天使に拐われてしまう…。部屋でホットミルクでも入れてあげよう。」

今の、ルシスさんも言っていた。

白夜の夜は気を付けなさい。
昼と夜の境目が分からなくなるから。
そうして時の狭間で迷子になっては天使達に拐われてしまいますよ。

そう言っていたルシスさんの声が、聞こえた気がした。



ハイデスさんに肩を抱かれ、部屋へと入る。
そういえば、ハイデスさんの部屋に来るのは初めてかもしれない。つい、キョロキョロと見渡していると笑われてしまった。
全体的にシックにまとめられていて、落ち着いた雰囲気だ。
装飾は凝っているが、色味が落ち着いている為か派手な印象は受けない。
当たり前だが、小物類や使われる物が男性的で自分の部屋との違いに少し緊張した。

ハイデスさんからもらったホットミルクは、ほんのり甘くて少し洋酒のような香りがした。

ソファの隣に座ると、ゆっくりと腰に腕を回される。
薄いワンピースの部屋着一枚しか着ていないので、ハイデスさんの手の体温を感じてドキドキした。
さっきのミルクのせいか、身体がほんのり熱くて、ひんやりと少し冷たいハイデスさんの手をいやに意識してしまう。

「……あの日、ルシスとどんな話を?」

「え?ルシスさんとですか?……他愛ない事、だったと思います…。」

「そうか……最後に、少し気分が悪かったようだが、何かあったのかい?ルシスも何も言わないし、君もその時の話を少し避けているようだ。」

ドキッとした。
確かに、私はあの時の話を少し避けてしまっている。ハッキリしたことを言わず、少し休めば大丈夫だったと体の良い言葉で誤魔化した。

私は嘘をつくのも元々下手な部類の人間だ。察しの良いハイデスさんには見抜かれてしまっているのだろう。

「大丈夫、怒っている訳ではないよ……君が言い辛いのだろうと言うことも、分かっている。けれど、やはり心配なんだ……私は君が大切なんだよ、アンリ。」

優しい声色。
ゆっくりと抱き締められると、あやすように頭を撫でられる。

緊張でまた一口、甘いミルクを口に含んだ。
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