• テキストサイズ

私を愛したモノなど

第3章 2 暖かな黒の中で


夜会から数日経ったある日、何だか夜になっても小さく胸が騒ぐような…ドキドキして落ち着かないでいた。
発作ではない筈だ。ルシスさんにもらった薬もきちんと飲んだし、変な感じもしない。
単に今日の朝は遅くまで寝ちゃったから寝れないだけかな、と思いユフィーを膝の上に乗せながら暫く頭を撫でていたが、ユフィーだけ眠ってしまって私は眠れそうになかった。

そっと、小さな身体をベッドへ下ろすと、外の空気でも吸おうと部屋を出た。
まだ、外は明るい。

部屋では外の光が入らないようにしている為分からないが、まだ遠くまで見渡せるほどだ。
日中とは違い、ほんの少し光が柔らかく青白いような、霧が掛かっているような空気だ。

途中のテラスへと出ると、ハイデスさんと踊った中庭が見える。
一日に、ルシスさんにハイデスさん…二人と素敵なダンスをするなんて、本当に贅沢な一日だった。
夜会の日の事を思い出しながら、うっとりと静かな庭を眺める。ふと、庭の奥に温室なようなものを見付けた。
あんなところあったんだ…そう思っていると、不意に後ろの窓がキイ、と音を鳴らした。

「アンリ…?こんなところで、どうしたんだい?」

風邪を引いてしまうよ…

そう言って、自分の上着を私の肩にかけてくれた。
こんな時間に、なんて言いながらも寝てる筈の私がこの広い屋敷のこんな場所にいることに気が付けるのは、この人くらいで。

「少し、眠れなくて…ハイデスさんこそ、どうしたんですか?」

「そうか…私は仕事が長引いてね。先程終えて、少し外の空気を吸いにきたところだよ。」

「それは、お疲れ様でした。あの、ハイデスさん…あの温室は?」

「ん?あぁ、あれか……私の母が好んで使っていたものだ。もう随分使われていないからね、荒れてしまっているだろう。こう見ると美しいけどね、今は危ないから近付いてはいけないよ。」

全面がガラス張りで、その縁が緩やかな曲線で美しい装飾が施されている。ガラス自体にも薄く色が着いているのか、柔らかなステンドグラスを全面に張り付けたかのようで、それ自体が芸術品であった。

この、青白い空気と、少し霧が掛かっている中にぼんやりと浮かび上がるその姿はとても神秘的だ。
/ 455ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp