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私を愛したモノなど

第3章 2 暖かな黒の中で


ポツン、と手元のグラスを見詰めていると、ほんの少し傍を離れていたルシスさんが戻ってきた。

「あぁ、申し訳ありませんアンリ嬢……一人寂しい思いをさせてしまいましたね。」

「い、いえ…違うんです。そんなんじゃなくて…何だか、少しぼんやりしてしまって。」

「おや、気分が優れませんか?ならば少し風にでも当たりましょう…。」

手を引かれ、縫うように人の間を通り抜けると一つのバルコニーへ出た。
外はまだ少し明るくて、遠くまで良く見渡すことが出来た。

「あ、ありがとうございます。すみません…私、ルシスさんに気を遣わせ過ぎちゃってますね。」

新しいグラスを受け取りつつ、こうしてここへ来てずっとルシスさんに頼りきりな自分に恥ずかしくなった。

「何を言うのですか。私がその役を引き受けたかった…ただそれだけのことです。それに、アンリ……貴女に頼られるのはとても心地が良い。」

さすが、上手い社交辞令だなぁ、なんて思って笑って見上げたら、急に真剣な表情のルシスさんがいた。

「信じておりませんね、アンリ。貴女が誰をその目で追おうとも、私はこの役を譲りたくはないのですが……そんなにハイデスが気になりますか?」

「え、いやっ…気になる、というか……何というか、すごい人なんだなって思って。急に遠い人みたいに感じちゃって。勿論、ルシスさんも…私なんかをエスコートして、恥ずかしい思いをさせてないかなとか、思っちゃって…。」

「なるほど、そういうことでしたか。やはり、貴女は少々謙虚過ぎますね。私が気配を消していたのも、貴女自身が注目されるからだとは思っていないのでしょう?ハイデスが今貴女を隣に立たせないのも、好奇の目に晒したくないからですよ。」

「…え?私が、注目なんてされる要素、ありましたっけ?」

「フフフ、そういうところが貴女の魅力の一つですがね。これは、悪い虫をはらうのに苦労しそうだ…。」

手を引かれ、抱き締められる。
思わず落としてしまったグラスが、カシャンと隣で音を立てた。
気が付かないうちに酔いが回ったのか、指先に上手く力が入らなくなっている。
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