第3章 2 暖かな黒の中で
「アンリ嬢、大丈夫ですか?」
「あ、はい…その、やっぱりルシスさん、目立つんだなって…。」
「あぁ、そうですね…私がこういう場へ来ること自体あまり無いもので、物珍しさでしょうか。申し訳御座いません。」
やっぱり、そうなんだなぁ…こういう場所はあんまり好きじゃないのかな、だとしたら申し訳ないな、なんて思っていたら、一人の男性が近付いてきた。
「失礼…あぁ、やはりモルゲンシュテルン師でしたか!このような場で御逢い出来るとは。今宵参加なさるとの話は伺っておりましたが、少々半信半疑でおりました故…。」
明るめのグリーンのスーツに身を包んだ男性はそれは深々と頭を下げ、少し興奮気味に話し掛けてきた。
「あぁ、これは失礼…今回は私は単なるエスコートですよ。彼女が、デビュタントとして出ると言うので、私が自らこの役を買って出たのです。ほら、アンリ嬢…」
「、お初に御目にかかります…アンリ・ファン・クロヴィスです。クロヴィス家の養子として迎え入れて頂き、本日こうして参加させて頂いております。」
男性の視線が私へと集中する。
噛みそうになるのをこらえ、何とかジェイドさん直伝の挨拶を終える。
「おぉ…まさか、あの噂のご令嬢が、この…?いや、さすがモルゲンシュテルン師、美しい方をお連れになっていると遠目ですが拝見しておりましたが…まさかあのハイデス卿のご令嬢だとは思いませんでした!デビュタントということは…まさか、そのドレスはご自身の…?」
「驚きでしょう?彼女は素晴らしい才能の持ち主ですよ。ハイデスも、こんなにも美しく洋々たる令嬢を今の今まで一体どこへ隠していたと言うのか。」
「いやぁ…、素晴らしいですね。王族でもその輝きは出せるものではありません。今夜陛下のご尊顔が拝められないのが残念でなりませんな。いや、待てよ…王子がご出席されていた筈では…」
キョロキョロと誰かを探している様子の男性に、内心ヒヤヒヤする。
お願いだから、誰も連れてこないでくれ…!さっきみたいな緊張感をこれから何度も行うのかと思うと、正直不安しかない。
「いえ、大変ありがたいですが、何せ彼女は深窓の令嬢の如く大切にされてきております…こういった場も初めてでして、急に王子の前に等出せませんよ。既に少し隠して差し上げたいくらいには。」