第3章 2 暖かな黒の中で
3着ある中で一番気になったのが柔らかく上品な光沢の生地に、胸元は大きめなレースの襟飾りとギャザーでシルエットを強調させるライン、細く絞られたウエストからは大きめのプリーツスカートと、それに重なるドレープで美しく腰周りにボリュームを持たせた生地を後ろへと流している。
ドレープを出すためにサイドで結われた大きめの垂れたリボンがアクセントとなって可愛らしい。
他2つは、レースがふんだんに使われた他に比べてボリュームのあるもの、あと胸元が大きく開いた少し大人っぽいもの。どれも可愛くて、迷いに迷って今のものにした。
前に、ジェイドさんとダンスの練習として着せて貰ったものに形やボリューム感が似ている。
そしてメイドさん、二人がかりで着せ付けてくれたそれは、思ってたよりも軽く、コルセットも思ったより苦しくない。
しかし、それ以上に私が身につけてから、少し暗いと感じたチャコールグレーが、ゆっくりと青みがかった明るいパールトーンのグレーへと変化していっているのだ。
「え、えっ…ハイデスさん、これって…!!」
「本人の魔力で色が変わるのは伝えただろう?これが、そういうものだ。…やっぱり、アンリ…君の色は美しいね。」
聞いてはいたし、そういった変化は目で見て確認出来る機会は何度かあったのだが、こんなにもかわるものは街で見たあのバラ以来だった。
「これはね、わざと色の変化を受けるように作られていてね。ベースは私の家系の魔力を織り込んでいて、最終は本人の色で決まる。デビュタントではこういった素材が基本的に使われるから、特別に仕立てたんだ。」
やっぱり、良く似合っていると言うハイデスさんに少し気恥ずかしくなる。
「……これを着て踊る相手が私じゃないなんて、本当に残念だよ。」
心の底から残念そうに言うその姿に、私もハイデスさんと踊りたかったと思ったが、鏡に映った自分を見てこんなにも素敵なものを着せて貰っても、きっとハイデスさんには釣り合わないんだろうなと思って、小さく微笑み返すことしか出来なかった。