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私を愛したモノなど

第3章 2 暖かな黒の中で



気が付けば、舞踏会の日まで残り2週間を切っていた。

その頃には、大きなミスも殆ど無く踊れるようになっていて、あとは細かい所作の修正だ。
あの日のハイデスさんの事は勿論ジェイドさんは知っていて、ついにバレましたかなんて笑っていた。
教えてくれれば良かったのにと言うと、それでは私が夜に寝なくなってしまうと言われ、確かにそれは正しい判断だったかもしれない。
それに、あんな時間に淑女の部屋を訪れるなど本来許される事ではありませんので、何度か追い払ったのだ、と少し怒っている。早馬で駆けてきた自分の主を追い払うとは、さすがジェイドさん…その時のハイデスさんを思うと、少し可哀想だった。

「よくここまで頑張りましたね。流石はアンリ様です。次回は少し本番に近い形式で練習してみましょうか。」


翌日、練習用とはいえ初めてちゃんとしたドレスを着て靴もダンス用だ。
メイドさんがドレスを着せるのに髪を結わないなんて!と髪もアップして、メイクもいつもより華やかな仕上がりだ。
ただの練習なのだから、ここまでしてくれなくても…と思ったが、鏡に映った自分が変わっていくのを見て思わず嬉しくなった。

「とてもお似合いで御座いますよ。ハイデス様が聞いたら飛んで帰ってきそうですね。」

そういうジェイドさんも、いつもと違う。
執事服じゃなくて、もっと華やかなスーツを着ている。

「ジェイドさんも、素敵です……執事服以外に袖を通してるのを初めて見た気がします。」

「おや、そう言われてみればそうですね。私には勿体無い御言葉。」

フフ、って笑ったジェイドさんが何だかいつもと違って見えた。

「では、いつものように最初のポジションから…ですが、本番に近いかたちでやりたいので、少し失礼致しますよ。」

すると、いつもは手を合わせる程度、脇下へも手を軽く添えるくらいだったジェイドさんとの距離がぐっと近くなった。
背中に腕が回され、手はぎゅっと握られる。

「基本的に、夜会では初対面の方と踊る機会もありますが、その時の距離は基本的にこの程度です。背中や腰に手が回り、身体は軽く触れる程度。まぁ、その方の性格にもよりますが、男性がリードするスタイルが基本ですので、お嬢様の場合そこも相手により、ということになりますのでお気をつけください……どうですか?大丈夫そうですか?」
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