第3章 2 暖かな黒の中で
「…あの、何してるのか、聞いても?部隊がどうとか、言っていたけれど…」
こんなにも長くまともに戻れないほど忙しいその理由が少し気になっていた。
様子からすると、室内で何かをしているわけでは無さそうだった。
布団から出た、外の空気はまだ少しひんやりとして自然と胸元まで布を引き上げた。
少し、言いにくそうに躊躇った後、小さく呟くような返事が返ってきた。
「……君を、さがしている。」
「、…え?」
「国から隊を引き連れて…君を、天女を探す命令を受けているんだ。笑ってしまうだろう?見付かる筈もない…だって、君はここに居るのだから。でも、君を引き渡す事は絶対にしたくないんだ……だが、ずっと探すフリをし続ける為に、本人に寂しい思いをさせているだなんて、本当に馬鹿げているな…。」
驚いて、隣に座るハイデスさんを見上げると少し切なそうな顔をしていた。
そんなことになっているなんて、知らなかった。
「こんな自分が不甲斐ない……すまない、アンリ。もう少し待っていてくれ…名残惜しいがもう行かないと。」
見送りたいと言ったら、断られたので、せめてもと枕元へ飾っていたバラを渡した。
「あぁ、ありがとう。明日からはもっと遠いところへ行かないといけなくてね…次に会うのはギリギリになってしまうかもしれない。それまで、いい子で待っていてくれるかい?」
「勿論、ダンスもジェイドさんのお陰で随分出来るようになりました。あと、色々教わったんです…お菓子とか、ハーブティーの淹れ方とか…だから、帰ってきたら楽しみにしてくださいね。」
「それは楽しみだな。…なるべく早く戻れるように尽くすよ。アンリの、元気そうな顔を見れただけで私は幸せだ。」
ありがとう。そう言うと最後に小さく口付けをしてハイデスさんは背を向けた。
パタン、と閉まる扉を見届けた後、月明かりを揺らす雲を見ていた。
天女を、探している…その言葉が、どこか胸の中でつっかえた。
探してどうするのだろう……前に幽閉だとか、自由がないだと言っていたけれど、どの程度どうされるのか分からない。
だからこそ、ハイデスさんは私を匿ってくれているのかな。
ポスン、と再びベッドへ横になり、ぼんやりしているうちにまた眠りについた。