第3章 2 暖かな黒の中で
そうして、急に静けさに包まれるような、そんな寂しさを感じながらルシスさん、そしてハイデスさんの背中を見送った。
昼間は午前と午後、無理の無い程度にレッスンをして残りの時間は本を読んだりして過ごしていた。
そして、庭の見えるテラスでお茶をするのが好きになった。
風が心地好くて、ここで外の景色を眺めていると、この空のどこかに二人とも居るのかなぁ、なんて思ったり出来る。
屋敷の外へ出てみるかと、ジェイドさんに誘われもしたが、正直前のこともあるし、この屋敷の敷地内だけでも随分と広さがあるから散歩程度ならば十分だった。
庭で摘んだ木の実を使い、簡単なクッキーやタルトを作ってジェイドさんと二人で食べたりもした。
遠慮しつつも、これはハイデス様に自慢しなくてはなりませんね、なんて笑いながらジェイドさんは私の少し寂しい気持ちを察してか、今だけは一緒の席に座ってお茶をしてくれた。
ジェイドさんからはダンスだけでなく、簡単な軽食やスイーツのレシピ、そして紅茶の淹れ方まで教わって、思っていたよりも有意義な時間を過ごしていた。
しばらくして、ダンスも様になってきたかな?という頃、ルシスさんから流れるような美しい字でしたためられた便箋と、薬だという綺麗な飴玉のようなものが届いた。
その薬をみてジェイドさんが何か言いたげな顔をしていたが、よく分からなかった。
手紙には身体を気遣うこと、どうせハイデスさんは忙しくて手紙の一つも寄越して無いのだろうということ、直接渡しに行けない事への謝罪と、寂しくは無いか、困ったことがあれば遠慮せずジェイドさんを頼るように、とのことが書かれていた。
ルシスさんがそんなに気を遣ってくれる事もないのに…と思ったが、素直に嬉しかった。
ハイデスさんからは、相変わらず連絡はない。
寂しいけれど、仕方がない。
相変わらずジェイドさんは優しいし…前にも増して過保護に磨きがかかっているような気もしなくもないが、ハイデスさんもあんな感じだったし、ちょっと慣れてきてしまった自分に苦笑いする。
今私に出来ることは、ちゃんとジェイドさんからのレッスンをこなして、本番ハイデスさんに恥をかかせないように頑張るしかない。