第3章 2 暖かな黒の中で
軽い身支度を終えて言われたテラスへ行くと、そこにはもうハイデスさんがいた。
良く見ると、向かいに誰か座っている。
淡い栗色の髪が、お日様に当たってキラキラと輝いている。
「あぁ、お疲れ様、アンリ…どうだった?初めてのレッスンは。」
「ジェイドさんがとっても優しく教えてくれたので、分かりやすかったですし、楽しめました。えっと……」
側に来る時も、話してる時もすっごいキラキラした雰囲気でそのお客様は私を見てくるものだから、無視して話すのも何だか気まずくて、視線を向けるとすぐに気が付いたのか席を立って挨拶してくれた。
「どうも、挨拶が遅れて申し訳ない。ハデスの仔猫ちゃん。前に一度街で会ったんだけど…エルメスだ、覚えてくれてるかな?」
「、あ!あのときの…!」
そうだ、どこかで見たと思ってたけど、ハイデスさんたちとカフェに行った時に会った人だ。
あの日の記憶が色々と曖昧だったけど、そうだ…このキラキラしたオーラは確かに見たことがある。
「あぁ、良かった。あの後大変な騒ぎになったろ?ハデスが血相変えて飛んでいったから、俺も心配だったんだよ…でも、無事みたいで安心した。被害はあったのかとか、無事なのかとか聞いてもコイツなかなか教えてくれなくてよ…。」
「此方も色々と後処理に追われてたんだ。野次馬に構ってられる余裕などすぐにあるわけないだろう。」
「野次馬って、これでもめちゃくちゃ心配してたんだぜ?部隊の方にも来なくなったしよ…その間俺が隊の奴ら引き連れてたんだから、少しは優しくしてくれよ。」
悪態を付きながらもニコニコと愛嬌のある表情で話すエルメスを見て、どこかで見たことがあるような…そう思った時に、何故か夢に出てきたあの人がちらついた。
似てるかもしれない、でも…全然違う。もっと甘い雰囲気で、何て言うか…見てるとこっちが溶けちゃうような空気を纏う彼が本当に現実世界にいるとは思えなかった。やっぱり、夢は夢だ。
「もうそろそろ落ち着きそうか?流石にいつまでも隊長様に引き込まれてたんじゃアイツらの土気が下がっちまうよ。」