第3章 2 暖かな黒の中で
あれから二日ほどして、本格的に私のレッスンが始まった。
屋敷の広いホールは初めて入ったが、高い天井と、それに伴い見上げる程の窓が開放的で、そして装飾も他より凝っていてきらびやかな印象を受けた。
「アンリお嬢様、舞踏会は3ヶ月後…少し駆け足になりますが、付いてきてくださいね。」
身体は本当に大丈夫なのか心配だったジェイドさんだが、流石、言った通り今日の朝には以前と何ら変わりない姿勢で朝、朝食の席に控えていた。
「は、はいっ…よろしくお願いします!」
簡単なステップ、スタンダードなポジション、リズムの取り方から、右も左も分からない私に丁寧に教えてくれるジェイドさんはハイデスさんとはまた違った完璧感がある。
リズム感があんまり良くない私だけれど、それでも分かりやすいと感じる程にジェイドさんの教え方は上手かった。
そして基礎的なものに一通り触れ、何度か実践してみたくらいで、最初の授業は終了。
「まずは慣れです。今日やった基礎はとにかく繰り返し行い、身体に覚えさせてしまいましょう。」
はい、先生!と思わず言いたくなるくらいだった。
久しぶり身体を動かしたからか、わりとクタクタで、それでも爽やかな疲れだった。リズムに合わせて、身体を動かしているとそこまで激しい動きでもないのに自然と汗が出る。
なんか、健康的って感じでいいかも。
でも、ジェイドさんはというと、服装も髪型も一切乱れず、勿論息ひとつ上がっていない。
「疲れたでしょう?少し汗を流したらテラスへいらしてください。美味しい茶菓子を用意致しますよ。」
「わ、本当ですか?すぐに行きます!」
運動後の甘いものは格別だ。
それに、ジェイドさんが淹れる紅茶も久しぶりになる。
あんな状態から、たった二日程度でここまで回復するなんて、嘘みたいだ。
シャワーを浴びながら自分の手をまじまじと見た。
この身体に流れている血は、一体何で出来ているのだろうか。
自分の身体が、自分で分からないなんてちょっと怖いな、と思った。