第3章 2 暖かな黒の中で
今日はもう疲れただろう。ゆっくりとおやすみ。
そう言って部屋まで私を連れてきてくれたハイデスさんは、最後に優しいキスをして戻っていった。
一人湯浴びをして、寝る支度を済んだ私はボフッとベットに倒れこんだ。
「ズルいなぁ、ハイデスさんは…。」
さっきのキスが忘れられない。
あんなことを言っておきながら、何もせず手を離すんだから、本当にズルい。
ギュッと枕を抱え込んで何とか他の事へ意識を向けた。
ジェイドさんの事、ハイデスさんとジェイドさんの昔の話……そして、天女の力。
天女か…目の前で自分のその力を見た訳だけど、やっぱりよく分かんないな。伝承でしか残ってない、おとぎ話みたいな存在と同じだなんて、それこそがおとぎ話みたいだ。
天使も、もっとキラキラしてるものだと思ってた。
モヤがかかったような記憶の中で、私が襲われたのは白くて羽根の生えた魔物だった。
あんなの天使でもなんでもない。天使っていうのは、綺麗で、羽根の生えた王子様みたいで、優しくて……
欲しい言葉を全部くれる…
そして、そう、沢山抱き締めてくれる……
その日、夢を見た。
真っ白い空間に私はいて、誰かに後ろから抱き締められていた。
なにかを話していたけれど、覚えていない。
視界の片隅に入った金の髪。
あぁ、私の知ってる天使様だ。
でも良く見たら、あのときのやらしい夢のヒトと同じ気配を感じる。
でも何故?あれはハイデスさんだって言ってたのに。
首筋に、耳元に、口付けと甘い言葉をくれるヒト。
頭を撫でられて、優しく抱き締めてくれる貴方は、誰?
青い空の下、ずっとずっと愛されてる心地よさの中で私は何度も彼に腕を伸ばした。
その度に彼は全部答えてくれた。嬉しかった。
沢山、本当に沢山の口付けをくれて、何度も何度も狂おしいほどに愛してる、愛してると私に言うの。
ずっと私だけを見て、私だけを求めるその天使が、ひどく懐かしく思えた。
不思議と夢だと分かっているその空間に、いつまでも浸っていたいと思えるほどそこは幸せな時間だった。