第3章 2 暖かな黒の中で
「ジェイドは学生の頃から優秀だったよ。私なんかより考え方が柔らかく、周りの人間とのコミュニケーション能力に長けていた。だから、このまま貴族階級の身分でいずれは彼の元の領土を任せようかと両親とも話していたんだ。…私が黒魔術師になろうとしたのもアイツが居てくれたからだ。もし、私が死んでも最悪の場合アイツがこの家を守ってくれると信じていた。だから、使用人になると言い出した時は驚いたな。任せたい土地があると言っても一切聞かなかった……黒魔術師として、騎士団として生きていく領主が使用人を取っ替え引っ替えするのか、と。あれが最初で最後だったよ…アイツが意地でも自分の意見を突き通したのは。」
伏せた目で、優しそうに話すハイデスさん。
ジェイドさんとハイデスさんが本当に仲良くて、気さくに話している訳が分かった。
この二人は本当に家族だったんだ。
「だから、ありがとう……アンリ、君のお陰で大切なものを失わずに済んだ。」
「そんな…私は何も……。」
「いや、君のお陰だよ。ありがとう…。」
優しく抱き締められた。
自分じゃ分からないけど、誰かを助けて、お礼を言われるのは暖かい気持ちになる。
「あの時のこと、ごめんなさい…まだハッキリと思い出せなくて、私に何か出来ることがあったんじゃないかとか、私を庇ってジェイドさんがああなってしまったのは何と無く覚えてて…」
「いいんだ、アンリ…無理に思い出さないで。恐らくルシスがわざとあの時の君の記憶を曖昧にしている筈だ……それ程までにショックな出来事だったからね。でももう大丈夫、君も無事にこうして私の腕の中に居てくれて…ジェイドも直に目が覚めるだろう。」
優しい瞳と目があって、額に小さく口付けられる。
そのままゆっくりと唇が触れた。
何だか熱があるみたいにぼーっとしてきてしまって、ハイデスさんを見ると笑われてしまった。
「…ねぇ、アンリ…誘っているのかい?」
そんなわけじゃない、そう言おうとしたのに今度はもっと深く口付けられて、熱い舌が口の中をまさぐる。
段々息が苦しくなって、上手く息継ぎが出来ていない私をハイデスさんが優しく離した。
「大丈夫かい?…全く、私も駄目だな。いい歳なのに、君に触れたくて仕方がない。」