第3章 2 暖かな黒の中で
屋敷の少し外れにある一室。
扉の前に少しキラキラした蜘蛛の糸のようなものが揺らめいていると思ったら、それは結界のようなものらしい。
医務室全体を覆い、空気中の魔力の揺らぎすら入れないようにしているらしい。
それくらい、今ジェイドさんは危ない状態だと言うこと…。
ハイデスさんが大丈夫だと以前言ったが、それはすぐに死ぬことはないと言うこと。ルシスさんが泊まり込みでジェイドさんのことを見てくれているお陰で何とか繋ぎ止めているらしい。
「…そんなに、酷かったなんて、私…。」
「アンリ、私があまり心配させ過ぎないように言っただけだ。君は悪くないよ。」
そんなことを言われてもやはり私を助けてくれた人をお見舞いもしていないなんて、なんて薄情な人間だと思った。
私に出来ることがあるから、今こうして来ているのだから、その分私に出来ることは何でもやろう。
扉の先に眠っているようなジェイドさんがいて、外傷はあんまり見えなかったが、顔が真っ白で血の気がない。
輸血されているのか、鮮やかな赤い血のようなものが入った袋が繋がれていて痛々しさがある。
「今、ジェイドさんはどういう状態なのですか?」
「命に別状はありません。今のところはね。分かりやすく言いますと魂を脅かす天使の魔力が今彼の中に残っており、それを中和させる為に私の魔力を注いでいます。何とか魂の崩壊を防ぎ繋ぎ止めていますが、このままでは生命活動を続けるだけの必要な力が足りません。天使に取られた魂の力は神の身元へ還されるので基本的に戻ることはない。今もゆっくりですが蝕まれている。
天使の魔力を抑えるのに必要な私の魔力が彼の魔力を上回ってしまった故に、目覚めることが出来ない。」
「ということは、ジェイドさんの魔力を上げられれば、目が覚めるのですか?」
「ええ。私の魔力を上回る事が出来れば私の魔力はジェイドの魔力に吸収されます。そうなれば自力で天使の魔力を抑え、いずれ完全に消すことが出来るでしょう。」
「あの、私は何をすれば良いですか…?」
「…天女の伝承が本当ならば、彼は助かります。試す価値はあるでしょう。アンリ、貴女の血を一滴頂きたい。」
「え、私の……?」
「……天女の力と言いますが、それは貴女自身が何か特別な魔法を使えるわけでも、特別な能力があるわけでもありません。」
