第3章 2 暖かな黒の中で
「…、っアンリ…私は、君に軽蔑されると思っていた。何故騙していたのだと、自分を利用するつもりだったのだろうと、そう責められる覚悟でいた。なのに、君は…それを安心した等と言うのか…?」
肩にあの大きな手が触れ、気が付けば抱き締められていた。
「利用されることに安堵などしないでくれ。いくら責められようとも、君への気持ちは本物だと、そう伝えるつもりでいたのに…。何で君は、私の一番汚い部分を受け入れようとしてしまうんだ…。」
「…ハイデスさんは、汚くなんて、無いです。」
「アンリ……。敵わないよ、君には。何でも聞いて欲しいと言った手前、君に大きな隠し事をしていた事を自ら説明出来なかった男なんだ、私は。もっと醜く罵られていいというのに。」
「そんな…私が何も分かってないだけで……ごめんなさい。」
私なんかよりも厚くて、逞しい身体が弱々しく見えた。
「君が好きだと言ったのは紛れもない本心なんだ。それだけは信じてくれ…。」
「……嬉しい。」
思わずその背中へ腕を回した。
すがるような声色…きっとハイデスさんは少なからず傷付いたんだ。昨日の事で、きっと沢山私の事を考えてくれて、そして今ここにいる。
それがこんなにも嬉しいだなんて、私も随分酷い人間だと思う。
でも、嬉しかった。どんな理由だとしても、この言葉は信じたかった。
だって、信じなければ私の中で嘘になってしまうもの。
ゆっくりと額にキスをされる。
この優しさを信じてここにいるのが今の私の出来ること。
朝食を食べ、食休みに庭に出てユフィーを遊ばせる。
日に当たるとキラキラして宝石のような姿を眺めていた。
あの子くらい分かりやすく美しければ誰からでも愛でられるだろう。
言うなればそれは武器なのだ。ならば私は私の武器を理解しなければ、きっとまた私の中で迷子になってしまう。
知りたいと思った。知らなくてはならないと。
わたしが何なのか、何故ここに居て、どこから来たのか。
青空の下、キラキラと輝く小さなドラークの羽が何かを思い出させてくれるような、そんな気がした。