第3章 2 暖かな黒の中で
昨日はそのまま部屋に戻り眠ってしまったが、目が覚めて、何だかスッキリした気分だった。
朝からメイドさんのお手伝いも、素直に感謝出来る。
私のそんな様子が顔に出ていたのが、調子が良さそうだとメイドさんが嬉しそうに微笑んだ。それがまた少し嬉しかった。
「おはよう。その、昨日はすまなかった……黙っていて、嘘をついていたと思われたかもしれない。本当に…すまない、アンリ。」
朝食の前、ハイデスさんがビックリするくらい落ち込んだ雰囲気で話し始めるから何かと思ったら、私と全く別の方向に考えていたみたいだ。
「そんなこと無いです、ハイデスさん。私、考えてみたんですけど…。元々何も出来ない、どこの誰なのかも、自分ですら分からない私が、何でこんなにも優しくしてもらってるのか、こんなに良い思いをさせてもらってるのか、分からなかったんです。」
少し眉間に皺を寄せ、真剣な表情になるハイデスさんの手を取った。大きくてゴツゴツしてる。
私から触れただけでこんなにも戸惑ってる、優しい手。
「でも、昨日の話を聞いて、私がここにいる理由があったんだ、って。ただの何も出来ない居候じゃなくって、私自身に価値があったんだ、って分かったから……すごく、安心したんです。」
「アンリ…、それは……間違っている。」
途中で遮られた言葉に、思わずその声の主を見る。
「……、え?」
びっくりした。
思わず、ハイデスさんの顔を見た。
「君は、昨日の話で天女として使われる人間として、私に利用されていると、そういう意味合いがあったんだぞ?!どんな扱いをされるかも、これからどうなるのかも分からない…そういう立場だということだ!私がこうして君を片時も一人自由にさせないのも、体よく条件を並べて私の元へ繋ぎ止めたのも、全ては天女である君を利用する為だったかもしれないんだぞ?分かっているのか!?」
初めて、ハイデスさんの強い口調と、その表情にびっくりして、動けなくなった。
荒々しい言葉と、その覇気に押されて、短い呼吸しか出来ない。
怒られた、あの優しいハイデスさんを怒らせてしまった。