第2章 1 箱庭
はあはあと荒い息だけが響く。
どうしよう、イっちゃったよ……キツネ相手に。
肩で息をしながら火照った体を落ち着かせる。
まだ熱く疼く体に耐えながら、体勢を整える。
多少足ががくがくいうが、何とか大丈夫。このくらいなら歩ける。
すぐに近付いて来るキツネの目が明らかな熱を帯びている。
それと同時に視界に入ったのはその足の間から見える、真っ赤な性器。
ニンゲンのものとは少し形の違ったそれは生々しくて、どこかグロテスクで……
これは、やばい。
本能的に逃げろ、と直感が告げる。
気が付いた時には私はその場から走り出していた。
走ったといってもがくがくの足で、元から早くもないので必死に逃げたところで逃げ切れるはずがないのは分かっていたが、それでも逃げなきゃ行けない気がした。いや、この場所にいてはいけない気がしたのだ。
何かに引き寄せられる、とまでは行かないがもつれる足をなんとか動かして森の中を走る。
しばらく走ったところで、追いかけられていないことに気がつく。
「あれ、なんだ……なに一人で怯えてんだろ。」
一人で走って、馬鹿みたいだったかな。
でもなんか、いつものキツネの雰囲気じゃないのは確かだったし、ここにいたらヤバイって思わされてる感じがして……。
ポツン、と一人森の中に立っていると急に何故か空しくなった。
不意につう、と内腿を伝う液が先程の熱を思い出させる。
とりあえず、体の疼きが治まってる今のうちになんとかこのぐしゃぐしゃの下着をどうにかしたい。
向こうに湖があるはず、と方向を変えれば私の走った道が綺麗に真っ白に変わっている。
あぁ、そんな余裕なかったからな、と思いながらもこれでは私はここにいますと言っている様なもの。
バレたところで来るのはキツネくらい。
今のあの子にはちょっと会いたくないし、やっと熱が冷めたのにまた変な気分になりそう……いや、それはないか。
しかし、何となく気分も悪いので色を変えないようにゆっくり歩き出した。
ぐちゅ、ぐちゃ、と歩く度に下着が粘着質な音を立てる。
あぁもう、何これすごいやだ。
早く洗いたいと足を進めるが、わりと距離がある。
そういえば一人でこんなに森の奥に入ったのは初めてかもしれない。
ザワザワと木々が風に揺れる音がなんだか不気味で、思わず気があせる。