第2章 1 箱庭
その翌日からコツコツと練習を重ね、数日後には問題なく外を歩ける様になっていた。
寧ろ、キツネのご飯用にと白くさせるほどだ。
「やってみれば出来るものなんだねぇ。」
そうなれば、ここに留まる意味が無くなっていることに気が付く。
この世界に来て、私以外の人間に出会っていない。
度々妖精のようなものは森の中で見たが、人らしき姿は影さえも見せなかった。
ここがよほどの山奥なのか、それとも人がほとんど居ないか、だ。
「でもなんか、だるいなぁ。」
なぜだろう、今朝あたりからダルっぽさを感じていた。
「何というか、熱っぽいというか…」
熱というよりも、どちらかというと体がうずくような……
その感覚に気が付いてハッとする。
いや、そんな筈ないよね。
きっと慣れない環境で疲れたんだ、うん。
だって、突然目が覚めたらこんなところに独りぼっちで、何とか食料にありつけているのはいいけど、ここが一体どこかだかなんて全く分からない。
何だか現実味がない空間で見たこともない植物があるから勝手に異世界って決めつけちゃったけどもしかしたらここは日本のどこかなのかもしれない。
あの妖精も変わった蝶々か何かなのかも。
どこか知らない離島の奥地で今もきっと世界は回っていて……
そこまで考えて、思い出さないようにしていたのに、嫌な記憶がフラッシュバックする。
「ああ、だめだ……思い出しちゃだめ、やっと逃げてきたんだから。やっと逃げてこられたんだから。」
きっとカミサマが私のわがままを聞いてあの世界から飛ばしてくれたんだから、深いことは気にしない。
このまま野生児みたいな生活になっても、きっと何とかなる。
ダメだったら、キツネさんに食べてもらおうかなぁ、なんて我ながらそこそこキツイ冗談を考えていれば、体の熱が少し冷めていくような気がした。