第10章 MY HOME (トリップ夢)
はひたすらにダンテを受け入れ、いつしか涙は止まっていた。
それでも、ダンテは止めない。
の思いを聞いてしまったから。
帰りたいと。戻りたいと。
それは当然ここから離れるという事で。
その言葉の意味が、自分から離れたいということにならないのはわかっている。
しかし、ダンテの胸に燻るものは、もう無視できない。
行くな。
離れるな。
を繋ぎとめておくように、何度も何度も触れて。
小さな唇がが息苦しさに喘いでも、身体を離そうとしても。
優しさは次第に心の奥底にある焦燥を浮かび上がらせ、必死に。
細いの腕を掴んで身体を掻き寄せる。
「は…ぅ、ダン…」
いつしかの身体は苦しいほどに抱きしめられ、身体を軽く包まれてしまうダンテの腕が、まるで逃がさない檻のように回されていて。
驚く。とても普段の余裕からは想像できない必死さに。
「ダンテ…くる、し…」
言うと彼はようやく唇を離し、掠れた声が返ってきた。
「帰りたいなんて言うなよ…」
ダンテは荒く息をするを抱き締める。
笑えるほどの怯えた声に心の中で自嘲する。
の身体からは力が抜けていて、彼女の腕は抵抗するようにダンテの胸を押したまま。
「帰りたいなんて言うな…俺の隣にいてくれよ。側で、俺を見ていてくれ」
違う。
俺が隣にいたいんだ。
俺がを見ていたいんだ。
いつでもの隣に居たい。見ていたい。
しかしそんな子供の願望のような事は言えなくて。ダンテは言葉を変え、に切望する。
「側にいてくれ…」
「……ダンテ…」
の、少し戸惑ったような声。
弱々しい自分の声に驚いたのだろうか。
―――だけどこれが事実だ。
が離れると思っただけで、こんなにも弱り情けなくなってしまう。
そして情けなさも弱さも通り越した先にあるのは、失わない為なら何でもするであろう狂気だ。
狂気はいつでも彼の奥深くで揺らめき、不安を得て勢いを増す。
その不安を消せるのはだけだ。