第55章 贅沢
はダンテの瞳を見つめる。
瞳の奥の気持ちを見つめる。
そうだ。
そうだね。
あなたは、大切な人を過去に失っているのよね。
はダンテの手に触れた。
暖かく鼓動する血の流れを感じる。ダンテがいる。
うん、実は私も結構辛かったりして。
「…おっわ!」
掴んだダンテ手を気の赴くままに引っ張って、その反動に身を任せて身体を倒しぼすんと枕に頭をぶつける。
ダンテはよろけての上に倒れ込み、かろうじて手で支え体重がにかかるのだけは避けられた。
「んだよ…」
覆いかぶさるようになっているダンテ。
は腕を伸ばして彼の首に絡めた。
ダンテが息を飲むのも構わず、ふわりと身体を持ち上げ抱き付く。
「……」
「落ち着く?」
「いや、落ち着く、けど…別の意味で落ち着かねぇ」
ダンテの手がさまよう。背中に回そうか、腰に回そうか、さもなくば。
「落ち着くならいいや」
は別の葛藤が渦巻き始めたダンテに構いもせず、ぎゅっと抱き締めた。
体温。どちらかわからないもの。混じっていく。
これからはもう少し自分からも触れてあげようか。
ダンテの手が似合いもせずおずおずと背中に回ってきて、は微笑んだ。
2008/01/11