第53章 精算 (初代ダンテ)
「卵代、貰おうか」
「た…ま…?」
「代わりに弾代でも払ってやるよ」
男の耳にも心地良く響くからかい気味の低い声は、奥底に暗さと狂気を潜ませてちらりと踊らせる。
輝く銀髪と人並み外れた顔立ち。人間かどうかも疑わしい程整った容貌に気を取られ、気付けば向けられていた銃口。
目と鼻の先、暗い闇が円く口を開けていて。
初めはきょとんとしていた男だったが、撃鉄を下ろす固い音で我に返ったようだった。
「ちょ…ま、待ってくれ!」
「冗談だ。殺さねぇよ」
拍子抜けするほどあっさりと銃を下ろされた。しかし男は警戒を解かない。
身を切るような威圧。これは何だ。
初めて感じる、圧倒的な相手に対する震えが。
赤い男の澄んだ目がきらりと光る。
「ただ一発殴らせてくれるだけでいい」
次の瞬間、男の身体は殴り飛ばされた。
小気味良いくらいにふっ飛ばされ一拍遅れて激痛が頬を襲う。容赦のない力加減に愕然とする。
私はそれを冷然と見ていた。
その視界に不意と入ってきた赤い男は、庇うように私の目の前に立って、壁に片手をつくと体重を傾けて。
まるで、見るなとでも言うように。
「その表情。俺が誰だかわかんねぇか?少しは有名になったと思ったんだけどな」
「………っ」
誰だかわからないはずがない。
そうである事実を受け入れられなかっただけだ。かつて嫌でも耳に入ってきた、何度も言い諭された言葉。
真っ赤なコートを着た銀髪の男には逆らうな。
語られる口から出る言葉は人間の領域を越えたものばかり。化け物じみた力と、容姿と、狙われたら最後二度と陽の光を見る事は無いという確証。
味方にすれば彼以上に頼れる者は無く、敵に回せば彼以上に恐ろしい者は居ないと。
冗談だろうと笑いながら聞いた自分。俺はもう駄目かもしれないと、緊張で汗を浮かべながら恐怖の表情で訴えた友人。
そういえば、最近友人を、見ていない。