第53章 精算 (初代ダンテ)
壁のように私と二人の男の間に立ちはだかった赤い彼は、終始笑っていた。
笑っていて、目は笑っていなかった。
「俺が誰だか思い出したみたいだな。なら話は早い」
深くなる笑み。反対に瞳は鋭さを増して、まるで獣のように光り、刺す。
「これは俺のだ。勝手に触るんじゃねぇよ」
裂かれるような空気。きっと人はこれを殺気と呼ぶのだろう。
一歩、近付く。
一歩、退がる。
「…次触ったら…わかってんだろうな?」
冗談ではなかった。
頼まれても金を積まれても一生の生活を保障されても触るまいと思った。
今は見なくなった友人の言葉が蘇っては何度も何度も脳裏に焼き付く。
この男とは関わってはいけなかったのだと、その言葉がそのまま口を突いて出そうになり、留め。
同時に。
「ダンテありがとー」
「いや。…お前ものこのこ喧嘩売るなよ」
「まあまあ」
「まあまあじゃねぇ」
その悪魔を恐れず会話をする彼女が少しだけ恐ろしくなった。
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