第51章 時間制限付きのある日
不意に空気が動いて、私は肩を竦めた。
何の物音もしなかったのに、首筋のすぐ近くに、暖かい息が。
「…………っ」
人がいる。息がかかるほど近くに。
嫌悪。嫌悪。嫌だ。
見えない。相手が。こわい。暗い。なんで。誰か。
手も自由にならず辺りも見えないとなればここぞとばかりに広がる恐怖。躍動する不安と絶望。
声はもう出なかった。ただ唇を噛み締めて。
ダンテを。
ふ、と相手が笑った気配がした。それにカッと血が上る。
相手がダンテでないなら犯人でしかない。そして相手が犯人でこんな悪質な事をする理由は。
悪質行為のその先は。
「信じらんない…」
掠れた声は相手に届いたかどうか。
考えてみれば、犯人が爆弾だけ設置してあとは待つだなんてオヤサシイ事をするはずがないのだ。
利用するものは利用し、略奪して奪って屈辱を味わわせてから助けに来た奴の目の前で消す。
思考が、手に取るようにわかって。
ぐいっと肩を捕まれた。足は自由だから蹴飛ばしてやろうかと考えたが、その前に足の間に割って入られる。
「…最ッ低」
壁に押しつけられ、何をされるか全くわからない状態。ただ、何をしようとしているかはわかって。
何がどこからどうやって来るか。夢なら覚めて、お願いだから。
唇が塞がれて、現実は確証された。