第51章 時間制限付きのある日
なぜかはわからない。
ふと懐かしいものを感じて、私はうっすらと目を開けた。
辺りは真っ暗。視線をわずかに傾けてからようやく眠っていたのだと理解して、ため息をつく。背中を預けていた壁の硬さに背骨が痛くなっていた。
しんとしたこの静けさ。ダンテはまだ来ていない。
と、突然目の前が真っ暗に塞がれた。びくんと身体を縮ませると、布で目を塞がれてあっという間に目隠しをされる。
「!?」
気配なんて探る能力は私にはない。まず人がいたという事実に驚いた。
あまりに突然の出来事に無意識に手を動かすが、縛られた腕は揺れただけで。
「だ…誰…?」
目隠しをされたまま尋ねる。辺りが全くわからなくて急速に不安になった。
パニックになりかける頭。響く警鐘。後退ろうと足が動いて、背中の壁にしがみつくように身体を寄せる。
その相手は目隠しをしたきり何もしてこなかった。何かされるかと身構えてみるが物音ひとつせず、まるで誰もいないかのよう。
しかし確かに誰かいるのだ。恐怖がこぼれて僅かに震える。
自然と間隔が狭まる呼吸とうるさい程身体を叩く鼓動。落ち着けと宥める一方で、思考。
この場所に入る人なんて限られている。ダンテか犯人かどちらかしかいない。
ダンテなら万々歳。
犯人なら。
「…ダンテ…?ダンテなの?」
「…………」
返答は無かった。
嫌だ、信じたくない。ダンテだ。そこにいるのはダンテのはずだ。
「ダンテなんでしょ?ねぇ、」
「…………」
「ちょっとやめてよ…。返事しないなんてタチ悪いじゃない!」
「…………」
膨れ上がる焦り。更に何か言おうとした唇は、震えただけでそのまま固まった。
言葉を発せば知りたくない事実を知るかもしれない。それが。
なんで、まさか、ほんとうに。だとしたら、ここにいるのは、どうして、めかくしを。