第44章 ごっこ遊び
電車が走り出してからすぐ。
「」
不意にダンテに名を呼ばれた。
「何?」
回りに聞かれるのをはばかるような、ダンテらしくない小さな声。つられても小声になりながら返事を返すと。
「痴漢ごっこしようぜ」
「……は?ちか………んわっ!」
思いっきり眉をひそめた途端、胸を後ろから鷲掴みにされた。思わず声を上げると、ダンテの手に口を塞がれる。
「声上げんなよ…聞こえるだろ」
「だってこんなとこで何考えて…っていうか頭大丈夫?酔ってる?」
「酔ってねぇ。しゃべんな」
「…あっ!もしかして今日ミニスカート履けって言ったの…」
「あったりー」
首筋にダンテの熱い息がかかる。は戸惑った。
こんな場所であり得ない。身をよじってダンテにビンタをくらわせたかったが、人混みが酷く全く動けなかった。
なのにダンテはまるで自由奔放で。
「うまそ…」
滑らかな肌に舌なめずり。舌に唾液を溜め、ぴちゃりと首筋に押し当てた。
「ひっ……ダンテやめて…!」
「しゃべんなっつってんだろ」
肩から首筋をざらりと舐め上げられ、寒気がして力が抜ける。唾液は溢れ落ちるように雫となり、重力に従って胸を滑り落ちた。
電車の騒音があって、人の話声があって、心底良かったとは思う。それでも隣の人に聞こえているかもしれないと思うとたまらなかった。