第44章 ごっこ遊び
「ちっと遠出しようぜ」と唐突に言ったダンテに少しの疑問を持たなかったといえば嘘になるけれど。
普段ならダンテのバイクで出かけるのだが、彼の荒い運転で車体は傷み修理はしょっちゅう。この日も修理に出していて、私とダンテは電車に乗って隣町に向かっていた。
「人、多いね…帰宅ラッシュとかぶっちゃった」
「まあ仕方ねぇだろ。この時間はな」
今は夕方と夜の境目。そろそろ世の母親は夕飯を作り出す頃だろう。
人の多さに多少げんなりしながらも、とダンテは人の列に並ぶ。
電車が来ると、途端人が後ろから急かすようにを押してくる。
そんなに急がなくても、と思いながら転ばないよう歩いていると、流れる人波の中ダンテに腕を捕まれた。
優しく強い力に惹かれるように、中に乗る。
想像通り中はぎゅうぎゅうのすし詰め状態。後ろから続く人に押され、二人はあっという間に反対側のドアに追いやられた。
動く事はおろか首をめぐらせる事もままならず、は嘆息する。
困ったようにダンテを見上げると、彼は大丈夫だというように頭を撫でて来た。
はダンテと向かい合い、彼のTシャツの裾を掴む。大丈夫、ほんの10分程度の辛抱だ。