第40章 つなぐ雫
「迷惑かけた、なんて思ってねえよな?」
「………」
確かめるように問うと、返って来るのは静寂のみ。
やっぱり、と思い、ダンテは気付かれないよう息をつく。
頭に手を置いたまま言った。
「あのなあ…この身長差が俺にとってどんな意味を持ってるか、知ってるか?」
「…ううん」
意味なんてないのでは、とは思う。
差は、埋められない距離。ダンテと並んで同じ目線で物を見たいのに、それは叶わない。
しかしダンテは穏やかに言った。
「この差は俺にとって、を守ってやれてると自信がつく大事なもんだ。俺と大して変わらなかったら、さっきみてーにちゃんと庇えねーだろ」
は少しだけ顔を上げた。
ダンテの手が頭から離れ、床に下ろされた彼女の手を優しく包む。
温かさと心地よさが、にじんで溶けて染み込んでいく。
更にダンテは言った。
「ただでさえ俺は仕事でいつもに心配かけてる。本当に悪いと思ってんだぜ? そんなお前を俺が守ってやるってのは…まぁ、償いに似たようなもんだな」
いつ悪魔に殺されるとも知れない身。
はいつも、不安と恐怖にさいなまれているのだろう。
「あぁ、心配させてるから守ってやってるってわけじゃねえぞ。だけど俺は、を守る事で、嬉しいと思う反面どこかで安心してる。あぁ、俺はまだを守ってやれてるってな」
「……うん…」
はじっと耳を傾け、言葉をひとつひとつ確かめるように聞き入れていく。
ダンテがこんな風に自分の事を話すのは珍しかった。
彼は思った事を口に出すようでいて、大切な事は言わないから。
言葉は、素直な分だけ重みがあって。
素直な分だけにつかえているものを溶かしていく。
すると、まるで。
溶けた氷のひとしずくのように
雨上がりの最後のひとしずくのように
ぽたりと
しずく。