第39章 魔法の呪文 (獣化)
「銀色の猫になるんだー。珍しいね」
ひょいっと掲げられる感覚。足が宙をもがく。
ゆっくりと目を開けると、いつにもまして至近距離の彼女の顔。
「あ でも目はアイスブルー。かわいー」
思いっきり舌打ちして滅茶苦茶引っ掻いてやりたかったが、そうすると今度は何に変えられるかわからない。
彼女が戻してくれるまではずっとこのまま。ずっと我慢。
長くて3日だった事を思うと、今回もそれくらいだろう。
足元が心許なくて、彼女の腕の中じたばた暴れて床に着地する。
そのまま一目散に駆け、冷蔵庫に走った。
無性にトマトが食べたい気分だった。精神安定剤なのかもしれない。
しかし当然のごとく冷蔵庫が開けられず、背伸びをしてドアをカリカリしていると、彼女が来た。
「トマト?」
俺を猫にした事で満足したのか、声はもう怒っていない。
聞かれて肯定するように見つめる。
彼女はがさがさと中を探りひとつ取り出すと、目の前に置いた。
「食べれるの?」
猫になった今ではいつもより大きく見えるトマト。
赤く歪んだ球体は誘うように艶やか。
ダンテはしばしトマトに鼻を近づけ香りを嗅ぐと、口を開けてかぷりと噛んだ。
瞬間。
──ぶあ!
吐いた。