第37章 真夜中の客 (初代ダンテ)
「そのナイフは使わねぇぞ。使いたくない」
ダンテは言い、代わりに、と銃を革のホルスターから抜きくるりと回して握った。
「いいわ。そっちの方が早く死ねそう」
「どうかね…」
銃口を向ける。
がきりと撃鉄を下ろす。
女の表情は変わらなかった。
それどころか。
「いいの?ここで。家汚れちゃうけど」
恐れも見せず首を傾げる。
そんなとこまで心配すんのかよ、とダンテが思っていると、女は有無を言わせず外に出た。
開けた扉から冷たい風。ダンテも後を追う。
「さあ、存分にどうぞ」
道の真ん中、両手を広げて、ダンテに微笑む女。
これから死ねるという事に幸福を抱き、希望を抱く表情。
何だか気に入らない。宗教者かこいつ。
死ねば幸福が待っているとでも思ってんのか。
まあいい。関係ない。
受けた仕事はこなすまで。
ダンテは、迷う事なく引金を引いた。
静まった辺りに銃声のこだま。
「………どういう事?」
弾丸は、女の頬をかすめただけだった。
頬に血の筋が浮き出る。
明らかな怒り。不審感からの睨み。わざと外された事くらい容易に見てとれた。
ダンテは、退屈そうに。
「俺さ、」
言おうとした瞬間。
───!!!
赤い悪魔の円。中心はどこまでも延々と果てしなく際限なく時間なく広がる闇。
悪魔の叫び声。
女のすぐ後ろに。
「な……っ!」
こんな時にこんな所に。
ダンテはあまりのタイミングのよさに舌打ちする。
銃口を悪魔に定めるが、しかし。
撃つには女が邪魔で。
悪魔はきしりきしりと音を立てて笑い。
真っ直ぐに素直に素直すぎるほどに刃を振り上げ、その先には。