第37章 真夜中の客 (初代ダンテ)
「こんな夜中に迷子か?警察なら道を一本向こう側に行った所だぜ」
「……貴方、悪魔なんでしょう?」
「あんた達から言わせるとな」
「頼めば何でもしてくれるのよね?」
「内容と報酬による」
女は、ダンテの答えを聞いて一歩前に出た。
「なら、依頼があるわ」
腰から何かを取り出して、ダンテに突き出す。
到底ダンテから届きはしない距離なのに。取りに来いとでもいうように。
「私を殺して」
ダンテはその言葉に少しだけ眉を上げた。
女は反応がそれだけだったのに不満を感じたのか、突き出したものの鞘を取る。
握られていたのはナイフだった。
「それで殺してくれって?」
「そうよ。お金ならある」
「頂けねえ依頼だな。金を本当に持ってるのかわかりゃしねえし…何より辛気くせえ」
飽きたように顔を逸らせるダンテ。その足元に袋が乱暴に投げられた。
じゃりん、と鉱物のこすれる音。
「好きに確かめて。あるのはそれだけ。お金を受け取ってから、私を殺せばいい」
「そうまでして死にたいのかよ…」
半ば呆れる。
悪魔を殺すのとはわけが違う。人を殺すのだ。
ダンテにとっても、後味が悪い事この上ない。
「あんたさあ、入ってくる前悩んでたろ? 悩んでるようじゃ依頼は受けられねえな。金も返してやるから、それで自分を変える努力でもしてみろ」
「ああ、あれ? これから死ぬんだし身だしなみを整えていただけよ」
女を横目で見る。
殺してくれと頼むその目は微塵も揺れていなかった。
「しょうがねぇな…」
はあ、とため息。
仮にも依頼人。頼まれれば断る筋はない。
ダンテは気だるそうに女に近付いた。
いいさ。殺してくれというなら殺してやろう。
それでお前の気が済むなら何度でも殺してやろう。