第31章 水音
その間もダンテは当たり前のように湯船に近づいてきて当たり前のように入り、当たり前のようにを見つめていた。
「あっち向いて!」
「何で」
「いいから!」
「隠すなよ」
「いいからあっち向く!!」
根性でダンテを気迫負けさせ、素早くバスタオルを身体に巻きつける。
これで一応応急処置にはなったが…相手はダンテだ。油断ならない。
「…入るならどうして入るって言ってくれなかったの?私もう出る…」
「おいおい待て待て」
怒鳴りながら言われた通り後ろを向いていたダンテは、くるりと振り返った。
はバスタオルが取れないようぎゅっと握る。
「何?」
「俺はと一緒に入るために来たんだぜ?出たら意味ねーだろ」
「でも恥ずかしいよ…!」
「そんな隅っこ行くなって」
ダンテがふわりと動き、に近づいてくる。
彼女は逃げる事も叶わずに身を固くした。
とん。
の後ろの壁にダンテの手がつく。
追い詰められてしまった。は焦り、困ったように助けを求めるようにダンテを見つめる。
しかしダンテは、妖しく穏やかに微笑んで。上半身のなめらかな筋肉に水が光り。
よく見ると傷跡だらけだ。闘った証。
だけどそれが今はやたらと綺麗に見えて、艶かしさにはぎゅっと目を閉じる。
すっと、顎に指の感覚。薄く目を開くとダンテの顔が思った以上に近くにあった。
と思うと、瞼にあたたかさ。彼の唇が触れたのだと気づくのに時間はかからない。
「ダンテ…ちょっと…」
「何だよ」
言いながら、顎にあった手は首筋へ滑り。
己の身体を更にに近づけ、彼女の身体を挟み込んで逃げ場をなくす。
逃げようなんて100年早いぜ。今日くらいはいいだろ?
ぱしゃんと水音。