第31章 水音
「夕食いつでも呼べるけど…どうする?先に風呂もっかい入るか?」
「………」
ふてくされたようにこくりとうなずく。子供みたいだ。
ダンテはそれにわからないように微笑むと、ぽんと頭を撫でた。
「じゃあ待ってるから。ゆっくり入って来い」
昼間のように、再び水音がする。ダンテは風呂場の扉をじっと見つめていた。
夜だ。もう夜になってしまった。
時間が過ぎるのは本当に速い。といるからだろうなと思う。
1泊2日は短かったような気がした。今更ながらに、もう1泊すればよかったと。
明日には帰るのか。
あの喧騒の中に。
あの事務所に。
――もったいねえ…
まだ何もしていないではないか。お楽しみはこれからだ。
ダンテは立ち上がると、着ていたシャツを思いっきり脱いだ。
視線の先は、水音のする風呂場。
はお湯に顔を半分埋めて今日を少し振り返っていた。
全く、とんだ恥態を晒してしまったものだ。はしゃいで沼に落ちかけるなんて。いや、殆ど落ちた。ダンテは呆れてしまっただろうか。
――ああもう、せっかくの旅行なのに…
そう思い、ぱしゃんとお湯を弾くと。
――カラカラ…
最初は風かと思った。
が、入り口を見た途端。
「ひ!!!??!?」
バシャンと足が滑り、慌てて起き上がりつつも後ろを向く。
自分の目が信じられない。嘘だ。でも見間違えようがない。
どうして…!
「よう」
「どうしてダンテが入ってくるのっ!!!」
腰にタオル1枚を巻いたダンテが、何でもないように入ってきていた。
対する自分はもちろん裸で。
幸い側にバスタオルを置いていたので、それをマッハでたぐり寄せ。
ためらいなく湯に突っ込み身体を隠す。