第31章 水音
「入って来いよ。まだ夕食まで時間がある」
「そう?じゃあ…入って来ようかな」
「一緒に入るか?」
「なっ…入りません!」
「照れるなよ」
「照れてない!」
からかうダンテには頬をふくらませる。
彼は笑って座椅子に腰を下ろし、テーブルにべたりと上半身を預けた。
「後で俺も入る」
「私が終わったらね」
「えー」
「えーじゃないの!じゃあ先に入るから」
「おう」
は荷物を掻き分けて着替えを探すと、ぱたぱたと風呂場へのドアに向かった。
どんな露天風呂なのかという期待もあるのだろう。軽い足取りでドアの向こうに消えていく。
ダンテはその小さな背中を見送り、彼女の可愛らしさに幸せそうに微笑んだ。
――風呂かぁ…どんななんかな。
静かな為かここにいても僅かに聞こえる水の音。
思考はにいっているのだが、無理矢理そらせてみる。
風呂場のドア一枚を除けば、向こうにはあられもない姿のがいるのだ。気持ちが高鳴るのも無理はないだろう。
家でもその状態は同じなはずなのに、旅館に泊まりに来たというだけで何かが違う気がした。