第29章 お気に入りの曲
「何だよ。どした?」
そう言って手を伸ばしてくるのを、
「知らない!馬鹿!」
と身をかわす。
ちょうど自室から出てきたバージルが目に入って、駆け寄って後ろに隠れた。
「?」
バージルは後ろのを見て不思議そうな顔をする。
ダンテのぽかんとした姿と少し怒ったようなの顔を見て、それだけで大体の事情は悟ったようだった。
「お前は…またやったのか」
呆れ顔でダンテに言う。
「え…俺だって何が何だか…」
「今度は何をした」
「だからわかんねえんだって。、俺何かしたか?」
「…………」
黙り込む。絶対言ってやらない。
ダンテとの外出に自分一人だけ浮かれていたのが馬鹿みたいだ。
するとバージルがに向き直り、視線を合わせるように屈んだ。
今にも泣きそうなその瞳を見つめ、優しく問う。
「馬鹿に何をされた?言ってみろ」
「…………」
はその言葉に視線をさまよわせた。急に萎縮する。
どうしよう。これくらいの事で怒るなんて、器の小さい人間だと思われるかも。
でも。気が収まらなくて。
恐る恐るバージルと視線を合わせると、少し首を傾げてきた。
ダンテとは違う真摯な態度。それに心が落ち着いて、小さく口を開く。
バージルは少し目を伏せながらもじっと話を聞いていた。
そしてが全てを話すと、身体を起こしての頭を撫でて、ダンテの方に視線を向け。
話の内容が気になって仕方ない様子のダンテに冷たい一瞥をくれてやり、
「大馬鹿が」
と言った。