第29章 お気に入りの曲
約束をした。今日の午後、ダンテと一緒に出かける約束を。
その時ダンテは部屋にいて、好きな曲を大音量で流しながらベッドに寝そべり、雑誌をぱらぱらめくっていた。
雑誌に集中しているのか音楽に集中しているのか私に集中しているのか、わけがわからない。
とりあえず生返事が返ってきて。
こっちの顔も見ずに言ったその声に不安になったけど、これ以上言っても邪魔になるだけかもと思って。
ちゃんとわかってるのかなぁ。ずいぶん適当だったけど。
そう思いながら部屋を出て時間を潰して、午後になるのを待った。
やがて。
ダンテがようやく部屋から出てきて、約束ちゃんと聞いててくれたんだと嬉しくなる。
「出かける準備できた?」
そう言うと。
「あ?出かけるのか?」
「…………」
最悪。
笑顔が固まるのが自分でわかる。
そりゃあちゃんと言わなかった自分も悪かった。生返事を聞いた時大きな声で言い直していればよかったのかもしれない。
でも。
私の声は届かなかった。お気に入りの曲はきっと届いていただろうに。
何だかダンテが聴いてた曲に負けたような気分。
好きな歌は私の声よりも大事だった?
そんなに耳に入らなかった?
お気に入りの曲。
いつもいつも聴いてるくせに。ちょっとくらい私に耳を傾けてくれたって。
そう思うのはわがまま?
無性に腹が立った。
悔しくて、不思議そうにしているダンテが恨めしくて。はべしっとダンテの胸を叩く。
ダンテはびっくりして瞬いて、叩かれた所を手で押さえた。