第24章 かえるところ (死ネタ)
「おい、あんた!」
不意に声がした。
振り返る気も起きなくて、そのまま。
立ちすくむ。
すると、ざりっと靴が石を踏む音がして、近くにやってきた。
視界に揺れる真っ赤な色。
少し顔を向けると、銀髪の向こうに覗くアイスブルーの瞳が、こちらを不思議そうに見つめていた。
やけに顔立ちの整った男だ。スタイルも何もかも抜群で、人当たりのいい表情をしている。
「どうした?大丈夫かよあんた。死にそうな顔してるぜ」
「………」
はまた俯いた。
何を言う気にもなれなかったが、何か言わなければと思った。
冷たい墓石をじっと見つめる。
すると彼はそれを見て。
気まずそうに頭を掻いた。
「あー…死んじまったのか」
死んだ。
重くのしかかる。
しかし、死んでいないと言えない。
彼はそれから、少し黙っていた。
と同じように墓石を見つめ、黙祷を捧げ。
まるでの気持ちがわかるかのように何も言わず、何も聞かなかった。
風が二人を、並ぶ石を撫でる。
突然現れたこの男が誰なのかとか、どうして何も言わないのかとか、関係ないのに立ち去らないのはなぜかとか、考える事はいろいろあるはずなのに。
何も浮かばなかった。
まるで肩を優しく抱かれたような妙な感覚。
並んで立って、それだけで。
暖かさに包まれて初めて、自分の心が冷たく凍えていたのを知る。
「…一人は…」
ぽつりと、風に乗って。
言葉。
「一人は、辛いよな…」
思わず顔を上げた。
失った事のない人の、薄い言葉ではない。
何かとても大切なものを失った事がある人の言葉だ。
重い思い。
彼はこちらを見ない。