第20章 勘違い
やがて、の声に紛れて。
「少し黙れ。あまり力を入れるな。やりにくい」
目を見開いた。少し息の上がった低い声。間違いなくバージルの声だ。
何してんだよ。おい、何してんだよ!
思わず階段まで走り、手すりに手をかけた時。
「んぁっあっ そこぉ!そこいいっ」
「ここか…」
聞いた瞬間階段を3段飛ばしで駆け上がった。
階段脇に置いてあるガラクタを蹴飛ばし、声のする方に駆ける。
バージルの部屋。
目は瞬きもせず体全体が怒りで熱い。
景色が消える。音が消える。
…てめえ…!
バァン!! とけたたましい音を立ててバージルの部屋のドアを蹴破る。
蝶つがいは壊れドアは半壊。それを更に蹴飛ばして。
ダンテが見たものは。
ベッドにうつ伏せに横たわると、彼女の上に馬乗りになるバージル。
「……っ!この野郎!!」
周りに構っていられなかった。二人が一緒にいる時点で、頭は狂いそうだった。
狂っていた。
発狂。
よりによって、よりによって。仕事帰りでようやくに触れると思ったのに。
膨大な怒りが爆発する。
が何か言っていたが聞こえない。
バージルとの距離を数歩で詰め、胸ぐらを掴み、拳を振り。
パシ、と乾いた音がして、バージルがダンテの拳を受け止め横に逃がした。
「何をそんなにいきり立っている。ただいまくらい言えないのか」
「うるせえ!! ふざけんなてめえ何やってんだよ!」
「何、とは?」
「とぼけんな!」
腹が立って腹が立って、殴りたくて仕方ないのだが。両手はバージルに掴まれてぴくりともしない。
膝蹴りをくらわそうとダンテが足を動かした、その時。
「ダンテおかえりー!お仕事お疲れ様!」
なんとも能天気なの声がして、思わず振り向いた。
振り向いて、眉をひそめた。
妙な違和感を感じる。
それを探り彼女の上から下まで眺め、すぐにわかった。
着ている服が、全く乱れていないのだ。
「………」
バッとバージルの服も確認。こちらも、いつもと変わり無くしわひとつないシャツ姿。
ただ胸ぐらの皺は、今ダンテがつけたものだったが。