第11章 揺らぎ
「…………」
言うべきか。
隠し通せるものでもないし、別に隠す事でもない。
悪い事などしていないのだ。
していないと、信じたい。
「…バージルを、連れ戻して来ます」
言って。
そっと様子を伺って。
しかしヒュウイは何も反応しなかった。
動揺した風でも、怒ったようでもない。ただ、指が変わらず髪をするすると滑っていて。
こんなにヒュウイが優しい事なんてあっただろうかと、ぼんやりと思う。
確かにいつも彼はからかうように身体を寄せて来たけれど、今みたいに…
優しく抱き締めて。
何をするでもなく、髪を退屈そうにいじり。
温かい。
温かい。
体温。
優しく包んで
痛みも傷みも
悼みも包んで。
は愕然として、突然まるで弾かれたようにヒュウイを突き飛ばした。
信じられないというような顔つきで離れ、ソファを降りて更に2、3歩下がる。
なぜ彼は、私をこうも優しく抱き締めたりするだろう。
なぜ。
こんな事あり得ないというのに。
昔は、抱き締めるというより抱き絞めるという感じだった。
仕事を終えて、なのに血しぶきひとつ纏わずに帰って来た私を笑って、
血生臭いからさっさと風呂に入れ、と言い。
言われた通りに風呂に向かおうとすると、抱き絞められた。
「よく、仕事を終えた」とそう言って。
絞める意味はわからない。
初めは随分戸惑って、このまま殺されるのではないだろうかという不安がよぎったが。
いつも、苦しくなる直前で解放された。多分意味なんてないのだろうと思う。
その後は、さっさと行けという風に背中を叩かれ。
心配してくれたのだろうか。
それとも私の事なんてどうでもいいのだろうかと。
湯船の中でぐるぐると考えたものだった。