第11章 揺らぎ
私は何がしたいんだろう。
バージルが出て行った。
もう戻って来ないと言われた。
髪を切ってもらった後…首に触れられた時の感情は、確かに恐怖。息遣いが怖くて、肌を擦る指が怖くて、バージルの存在が怖かった。
でも、恐怖と嫌悪は違うもの。
バージルの事は嫌いではない。むしろ好きだ。
あの事があっても尚、好きだ。
好きって何?
何で好き?
どうしてわかるの?
判断の基準は何?「嫌い」じゃなければ「好き」?
わからない。
殺ししかしてこなかった私にはわからない。
涙すら出なかった。
出る理由がなかった。
バージルの事が好きか嫌いかと言われたら好き。
一緒にいたいかいたくないかと言われたらいたい。
なら。
バージルが離れていった今、私がするべき事は?
一緒にいたいと思うなら、するべき事は?
理由はそんなに立派なものではない。
一緒にいたいのにいなくなってしまったから。
それだけ。
ごめんね。
ごめんね。
こんな浅はかな考えであなたの決意をふいにするなんて。連れ戻すなんて、どうかしてる。
「………」
連れ戻す?
違う。バージルはここに帰って来る。
ここは、バージルの家だ。
ふと、ヒュウイはこれに気付かせる為にさっきあんな事をしたのだろうかと思った。
だとしたら、首を絞めるだの口付けるだの無駄な事をしたにも程がある。
さっさと、要件だけ言えばいいのに。呆れたような苦笑が漏れた。
は立ち上がった。
寝着を脱ぎ、着替える。連れ戻すと決まれば、急ぐに越した事はない。
ヒュウイは怒るだろうか。
呆れるだろうか。
怒鳴るだろうか。
行かせてくれるだろうか。
引き止めたりするのだろうか。