第11章 揺らぎ
バージルは空を見上げた。
曇天。灰色の雲には動きもなにもない。
無感動にそれを見つめる。
コツ、と足を踏み出せば、まるで何かがこぼれていくような感覚。
脳裏に浮かぶ顔は、一歩足を進める度に、薄く、強くなっていく。
だんだん、顔が思い出せなくなっていて。
それが、後悔と安堵と焦りと不安に拍車をかけた。
もうどのくらい歩いただろう。
ずっと歩き通しだった為に、もはや距離があやふやになってきていた。随分遠くまで来た事だけはわかる。
何もかもどうでもいいとさえ思える脱力感。何のために自分はここまで来ている?
何のために、あの家を…。
―――しっかりしろ。
らしくないにもほどがあった。
こんな気持ちになる事は多少予測していたが、これほどとは思わなかった。
ため息をつく。堕ちたものだ。
人間味が増したのか?
これからどうしようかと考える。
少しだけ自分が嫌になって、少しだけここからいなくなりたくなった。
が、馬鹿馬鹿しいとかぶりを振る。
仕事でも探すか。
忙しい仕事。何かを考える暇もないような。
そう思い、役所へと向きを変える。
金があれば、食べて暮らしていける。
新しく住む所も考えなくてはならなかった。
「…………」
重たい。
全てが。
――――――――――
はしばらく、ベッドの上で呆けていた。
色々な事が頭を駆け巡った気がするが、全く思い出せない。
思い出そうとすると、指の隙間からするりと抜けていく。
そうして、思い出そうとして思い出せなくて。
時間が過ぎる。
ヒュウイは出て行ったきり、いつまで経っても朝食を急かして来なくて。
そのせいで、随分の間考え込んでいた。