第10章 変化
「……やめてください」
怯えた顔をしながらも気丈に振る舞い、強い口調で言う。
ヒュウイはそれを興味深そうに笑って眺めた。
「ほう? 俺のする事を嫌がるなんてな」
「…思い出します」
「何を?」
こちらをじっと見つめる紫の瞳から逃れるように、は視線をそらせた。
相手が嫌がっているとわかっているのに、肩から手は離さない。それどころか挑発するように肌に触れ、焦らすように指先だけ寝巻きの中に滑らせた。
しかし、これ以上主であるヒュウイを拒絶する事はできない。
恐怖が骨の髄まで浸透している。
拒絶すれば殺されると。
人を殺す職業をしているのに殺されるのが怖いなんて、とんだ茶番だ。
は唇を震わせた。
主に嘘はつけない。誤魔化しもしない。これも教え込まれたこと。
「襲われた事を、思い出します」
途端、ヒュウイの表情が一変した。
からかうような表情が消え失せ、を見つめる。予想外の反応に彼女は驚いて身を引いた。
「……誰に 襲われたって?」
「わかりません。空き巣のようでした。物色するついでに私を…」
ついで。自分で言って、苦しくなった。
ヒュウイはすっと視線を下げる。
「……ふぅん…」
「?」
そのまま黙ってしまい、は不安になった。
肩に置かれていたヒュウイの手が離れて焦る。何か悪い事でも言っただろうか。
しかし間もなくして。
うろたえたの視界ににやりとヒュウイの笑みが映ったかと思うと、視界がぐるんと反転した。
「え…」
視線の先に天井。いや、ヒュウイの笑った顔だ。
肩はいつの間にか両方ともがっちりつかまれて、長いヒュウイの髪が首をくすぐった。
押し倒されたと理解するのに、そう時間はかからない。