第8章 髪切り
「その髪…」
「ん? あぁ、これ?」
「どうするつもりだ? そのままにしておくのか?」
は髪を一束つまみ、眺める。
「んー…できるなら揃えたいけどなぁ…」
「………俺がやるか?」
言うと、彼女は驚いたようにバージルを見上げた。
「できるの?」
「切ればいいだけだろう。俺にもできる」
バージルは立ち上がると、ハサミを探しに戸棚へ寄った。
は考えているようで黙っている。
「そうだなぁ…ずいぶん長くなったし、お願いしようかな。真っ直ぐ横に揃えてくれていいからね。異国で黒髪を揃えた髪型があって、やってみたかったんだ」
はしゃいだような声でそう言うと、椅子に座り直した。
バージルは途端に嬉しくなる。
が自分を頼ってくれた事が、こんなにも嬉しい。表には全く出さないけれど。
バージルはハサミを構え、の後ろに回った。
床には紙を敷く。
「お願いしまーす」
背もたれに身体を預け、。ソファの上で膝を抱えている。
その彼女の髪を少し持ち上げた。
―――…
吸い付くような滑らかな手触りに、バージルは思わず目を見張った。
紅く染めたにしては、ほとんど痛んでいない髪。
切るのが惜しく思える。
短い方の髪と長さを合わせ、ハサミを滑らせた。
しゃくっと音がし、ぱさりと髪が落ち。
の髪に触れ、それをこの手で切っているのかと思うと、言い様のない緊張と嬉しさが身を包んだ。
時折髪の合間から見えるうなじに心が震える。
触れたい。
しかし触れられない。
いや、今なら大丈夫か?
髪を切っている最中だし、触れても不自然ではない。
うざったいあいつもいない。
そこまで考えて、まるで隙を狙うかのような考えに苦笑した。