第8章 髪切り
がヒュウイを選んだら。
考えたくもない。
が、もしも選んだのなら。
その時は俺は、潔く、諦めよう。
とん、と階段を降りる軽やかな足音が聞こえ、バージルは薄く目を開いた。
―――。お前が本当にあいつを選ぶと言うのなら、俺はきっと止められないだろう。
に嫌な思いをさせてまで己の我を通そうとは思わない。が幸せでいてくれるなら、それでいい。
彼女の血濡れた心をもうこれ以上傷つけたくはない。
を見ると、彼女は上着を着ながらリビングに降り立っていた。
きょろきょろと辺りを見回し、キッチンからする音に気づく。
バージルはかすかに笑った。
気にするのは、ヒュウイの方か。
「…ホントに作ってるの?」
キッチンを指差しながらは言う。
半ば信じられないような表情をしていた。
「らしいな」
「…ふーん」
嬉しそうな顔をして、バージルの向かいに座る。
バージルはそんな彼女をぼんやりと見つめた。
「すごい驚いた。ヒュウイ様、人の命令は一度も聞いた事ないんだよ? 言う事聞かせたの、バージルが初めて」
嬉しくもない。
眉をひそめる。
「ただで聞いたわけではないだろう。お前が頼んだからだ」
「そうかな…」
は少し首を傾げた。
キッチンを見つめ、聞こえてくる音に耳をすませる。
ふとバージルの目に止まったのは、不自然に短い髪。
そういえば、昨日ヒュウイが撃った弾丸のせいで、は髪を切っていたのだった。