第8章 髪切り
「貴っ様…!!」
「おっと。そうはいかないぜ」
殴りかかろうとするバージルを、軽やかに避けるヒュウイ。
バージルの拳が届かない位置まで来ると、不敵笑いを浮かべた。
「んじゃ作って来る。出来たら呼ぶから待ってろよ、」
「あ はいっ」
バージルには目もくれない。
ヒュウイは黒いシャツの袖をまくりながら、ご機嫌で部屋を出て行った。
バージルは気が済まなくて、追いかけようとする。
あんなに自分勝手な人間がいるものかと憤慨し、眉間にしわを寄せて部屋を出ようとした。
が。
「待って」
に呼び止められ、バージルは足を止めた。
「いいよ。追いかけなくて」
「な…」
いい、だと?
何がいいと言うのだ。口づけまでされて。
しかし、の顔がほのかに嬉しそうなのを見て、バージルは苦虫を噛み潰したような顔になる。
―――嬉しいとでもいうのか。
ヒュウイに口づけられて。
無断で部屋に入られても尚、嬉しいとでも言うのか。
自分にはそれができない。
バージルは不愉快な気持ちに包まれる。
「…早く着替えろ」
湧き上がる嫉妬。
自分の心を、目の前の状況を、うまく認められない。
バージルはそう言うと、に背を向けた。
「ん ありがと」
の声を聞きながら部屋を出る。
―――バタン
ドアを閉めると、その音が胸にずしりとつかえた。