第7章 決断
そして 食事が終わり、これもまた当たり前になってき始めていた流れでが片付けに食器を洗っていた時。
―――ガチャッ
「―――!」
びくりと身体が震える。
手にしてした皿が滑り、流し台に落ちてゴトンと音を立てた。
静寂が一気に破られ、ノイズが溢れた。
―――来た…
落ちてしまった最後の皿をすすいで布巾で手を拭き、キッチンを出る。
バージルが、微妙な距離を保ちながらの傍に来る。
その手には、彼の愛刀。
―――ゴツッ ゴツ
土足の音。バージルの眉がびりっと震える。
刀を力強く握ると、ゆっくりと鍔を親指で押し上げた。
―――俺を止めるなら、殺すくらいの勢いで来い…
その怜悧な気配の漂う身体が一瞬小さく震えたのは武者震いか、それとも別の何かのせいか。
ぴたりと足音が止まると。
「よう」
全身黒づくめの服の上に更に真っ黒なロングコートを着て、ヒュウイが現れた。
「来いよ、」
信じて疑わない命令。その圧倒的な言葉の力。
その声には、進む道がひとつしかないような錯覚を覚える。
バージルが私を見てる。
気配でわかった。
だめ、しゃんとしなきゃ。私が私であるために。
言わなきゃ。
言わなきゃ。
答えを。
「わた、し……」
ヒュウイが面倒くさそうにを見た。
は服をぎゅっと握る。
「…わたし……」
怖い。
これは何に対しての恐怖?
言葉が出てこないのはなぜ?
「私、ここに…」
「俺と来い」
意を決してつむいだの言葉は、ヒュウイに簡単に崩された。
それだけで。
たったそれだけでは何も言えなくなり、情けなさに涙がにじむ。
暗殺者にとって、育て親の次に絶対である雇い主、主の命令。
脳が言うことを聞けと騒ぎ立てる。
心がそれに引き裂かれる。
私の血は呪われている。今更決意して何になる。迷惑をかけない保証がどこにある。
相手を殺さない確証が、どこにある。