第6章 過去
「…悪かった。俺も、を引き留めるために必死なのかもしれん。気にするな」
「……………」
は泣きそうな顔でバージルを見る。彼が謝る必要なんてどこにもない。
そう。思えば、バージルに特別な感情を感じたのも事実。
は胸中で己を嘲笑った。
醜い。欲深くて汚い人間だ、私は。
私は、誰が好きなのだろうか。
誰かを、好きなのだろうか。
バージルはから自分の手を離した。
その動作は、彼らしくもなく揺れていた。
「今の事は忘れろ。ただ、俺がお前を好いているという事だけは…知っていて欲しい」
「………うん」
「惑わせて悪かった」
…謝らなくてもいいのに、とは小さく呟いた。
何にせよ、これば間違いなくバージルからの告白だ。優柔不断な自分が一番悪い。
「考え………させて。一晩。明日には答え、出すから」
「あぁ」
はその返事を聞いて儚く微笑むと、椅子から立ち上がってリビングを出た。
部屋へ消える。
ドアを閉める直前、バージルを見ると
「話、聞いてくれてありがと」
と言った。