第6章 過去
。
生まれて数年後、暗殺部隊に売られ人殺しを叩き込まれた。
そしてヒュウイ様に売られ、護衛が仕事。
だった。
一生護ると言った。約束をして、決して破らないと誓ったのに。
今はまた、殺しの仕事。
何で?
人を殺さなくてもよくなって、護るという事に憧れた。
でも、結局殺して。
何で?
私は、人を護っちゃいけないの?
好きになっちゃいけなかったの?
「………ぁ……あ…」
目の前の冷たい瞳に、私が写っている。
紅い髪。それを見た瞬間、身体が震えた。
血だ。血の色だ。
忘れちゃいけない。忘れるなと念を押している。
私の過去を。殺した人の事を。一生護ると言った約束を。
ふと急に可笑しくなった。私は本当に、誰かを護れると思っていたのだろうか。
人殺しをしていたくせに人を護る仕事に憧れ、その仕事に就いたと思えばやっぱり人殺しはただの人殺しで。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。そんな存在が人を「好き」だなんて、そんな「好き」は歪んでいる。
それは「好き」なんかじゃない。
私は。
私は本当に、誰かを好きになっていたのだろうか?
ゆらり、ゆらりと。信じていたものが傾く。
まるで蝋燭の火が風に揺らめくように。強く冷たい風が。
…だめ。
信じないとだめ。
これがなくなったら私は、何も信じるものがなくなる。希望がなくなってしまう。
不安になった。自分が今まで信じていたものは、こんなにも脆いものだったのだろうか。
すい、と。
いつの間にか、バージルの顔が覗き込むように近づいていた。至近距離で見つめる瞳。心配そうだ。
「しっかりしろ。…突然、悪かった」
声をかけられ、はっとする。
いつから物思いにふけっていたのだろうか。の手にバージルの手が重ねられていた。
温かい手の平に包まれているにも関わらず、自分の手は冷たい。
ふっと気持ちをやわらげると、じんと体温が戻った。
息をついたのは、どちらだったか。