第6章 過去
こらえるような嗚咽が静寂に心細く響く。バージルは黙ってその様子を見ていた。
ティッシュの箱をの方に押してやったが、彼女はそれをつかわなかった。
一粒だけこぼれおちた涙を自分の服で拭い取る。
やがて落ち着くと、再び話し始めた。
「くじける私は弱いのかもしれない。人殺しをする自分を恐れるのは、間違いなく身体よりも心が弱い証だ。でもそんな中、私は気付いた。ヒュウイ様に感じる特別な気持ちに」
ぴく、とバージルが反応する。
「人を殺しても、ヒュウイ様は私を追い出さなかった。仕方ない奴だなって言って、ため息ついただけ」
それは、もがいて抵抗して泣き叫んでいたにとっては唯一の救いだった。
責めて正してくれたら、とも思ったが、それでは今の自分にとっては何もならない。ただ、許しが欲しかった。
存在してもいいという許しが。
「でも私の身体は、そんなヒュウイ様にまで殺そうと反応して…。このままじゃいつ殺してしまうかわからない。いつ首を絞めてしまうかわからない。それに、主を好きになる事も禁忌。
だから私は、この想いを閉じ込めて、他に誰も好きにならないと誓って、ヒュウイ様に一生会わないと決めて、家を出た」
それが4年前。
「ヒュウイ様はなぜか私を気に入ってくれてたみたいだから、逃げるのに苦労した。あちこち飛び回って、逃げ回って……逃げ切れたと、思ったのに……」
追いかけて来た。
こんな所まで。
あれから随分経っている。諦めたと思ったのに。まだ探していてくれた。
嬉しかった反面、どうしようもないほど悲しかった。
「……………」
バージルは黙ってを見つめていた。口を挟むべきではないと感じていた。が。
の過去に眉はひそめられたまま。
気持ちも落ち着かない。
ただ、何よりも心に重く重くのしかかるのは。
「…あいつが、好きなのだな」
「……うん」
4年前から、ずっと。
想いは変わらず、守られ続け。何者も寄せつけず。
バージルの中の、開きかけた箱は。
「………そうか」
静かに蓋を閉じた。
それから一人偽名を使って殺し屋を名乗り、暮らし。
ヒュウイから隠れるように、会いたいと疼く心を抑えながら過ごし、今に至る。