第5章 招かれざる客
その声を聞いた瞬間、は凍りついた。
振り向く事すらできない。動きは完全に止まり。
嘘だ。これは夢だと。
バージルが刀を取った。
の様子がおかしい。それ以前にこれは立派な不法侵入だ。
隠しもせずに睨みつける。
警告。
空気の動きが止まったかのような。
――――……
喉が焼けるようにひりついた。指一本動かせない緊張感。
動かせば最後崩れて負けると確信して、は震えを抑える。
忘れようとしていた声。
忘れてしまいたかった声。
逃げてきた声。
逃げられなかった声。
渇望しては拒絶され遠慮すれば干渉されて。
蘇る苦しさと痛みと笑みと声と。
どうして。どうして。
どうしてここに。あの家にいるんじゃ。まさか見つかるなんて。
忘れようとしていた声。
忘れてしまいたかった声。
逃げてきた声。
逃げられなかった声。
逃げたくなかった声。
怒涛。
今にも動きそうな表情の割にぴくりとも動かない3人の中で、の内は荒れ狂う。
ああ、なんて。懐かしい。
思い出が蘇る。
思い出したくない。
会いたかった。
会いたくなかった。
嬉しい。
なんて不運。
終わりだ。
始まりだ。
泣きたい。
喜びたい。
駆け寄りたい。
逃げ出したい。
私がただ一人仕えた主。敬意を表し頭を垂れよ。
駄目だ。許されない。
誓ったはず。逃げたはず。
なのに今更敬意なんて笑わせる。
でも、皮肉ですね。
捕まったら逃げられない。
はようやく。
ようやくようやく決死の思いで。
これを言ったら死んでしまうとでも言うように、恐る恐る待ちわびたようにかすれながらも響く声を出した。
「ヒュウ イ… さ…」