第5章 招かれざる客
男は、寂れたスラムを歩いていた。
空の明るさが街を照らすが、照らされるのが汚れた建物では、その光すら汚れて見える。
靴の音が建物に反響してひびく。じゃりじゃりと砂を砕く。
手に持っていた煙草を最後に大きく吸い、捨てながは息を空に吐き。
あいつは今どうしているだろうか。まだ血濡れた事やってんのか、それとも足を洗ったか。
まぁ、あそこまで染みつけば足を洗うなんて叶わないだろうけれど。
立ち止まり。
前を見たくないというように目を伏せる。
目の前には、家が建っていた。
の料理が出来上がる頃。それまでじっと見張るようにを見ていたバージルの眉がぴくりと動き、入口を見据えた。
「…………」
も一拍遅れて気付く。少し離れてはいるが、外に人の気配。
バージルは立ち上がった。何かおかしい。
確かに家の近くにいるはずなのに、気配が動かない。
歩きもしないのはともかくとして、動いている感じが全くない。ただ立っているような。
「お客さん?」
「さあな」
答えた時、気配は動いた。
するりとすべるように。まっすぐこちらに向かってきている。
しかし、バージルは極力人間との関係を持たないようにしている身。
この家に客が来るのはおかしかった。
は出来上がった料理を皿によそい、運びながら言う。
「こんなところに人なんて来るんだ。バージルの知り合いかな?」
「違うな」
突然、バージルのものでものものでもない声。
低く心地よく耳に残る声。